生きることは忘れること

都市工学とは何か

(都市工学科に内定したので、現時点での考え(あるいはお気持ち)を書き記しておく)

都市工学とは何か。対象を都市とした工学の一分野である。それはそうだ。だからこの問いは、何をやっていて、なぜ分野として成立しているのか(あるいは、ほんとうに分野として成立しているのか)、ということだ。

10月あたりに人に説明する機会があったときに使った言い方は次のようなものだ。都市工学に先立って土木や建築という分野があった(建築が工学かどうかについては議論があろうが……)。それらは土木構造物や建築物を作る技術だ。だけど、これらは土地に定着するものであるので、どこにどう作るかというそれらそのものより大きい空間スケールの視点と情報が必要になる。それで、そのような視点を持った分野としてたちあらわれてきたのが都市工学だ。

都市工学のどこが工学なのか。工学とは何かという話だが、「数学と自然科学を基礎とし,ときには人文社会科学の知見を用いて,公共の安全,健康,福祉のために有用な事物や快適な環境を構築することを目的とする学問」1というように定義したものが比較的よく引用される気がしていて、まあ、割と抵抗なく受けいられるものだろう。

さて、都市工学は数学と自然科学を基礎としているか。都市というのは人間の営みの場であるわけだが、人間の活動によって構築される体系に関する学は、たぶんたいてい自然科学ではないだろう。人間の活動を数理モデルであつかうような研究ももちろんあって、そこには数学が使われていて、それに自然科学の手法とどこか似ている部分があるのは確かだし、あるいは、都市の物質収支やエネルギー収支を考えるような議論は自然科学っぽさがあったりして、もちろん全部が全部そうというつもりはないのだが。

まあ、最初に述べたように、工学であるところの土木や建築がその成果物を社会のなかに存在させるには、その内部では完結せずに、空間スケールの異なる分野の知見が必要であるのであって、それを工学の内部に持っておくことには意味があるかもしれない。

ところで都市工学の都市のほうはどうか。こちらに関しては私はあまり気にしていなくて、個々の建築物や土木構造物より大きい空間スケールで、地球より小さい空間スケールであると理解している。その中で複数の人間が日常的に活動する領域と条件をつけてもよいだろう(都市というからには一定の規模を要求するべきなんだろうが、最近のようすをみるに、そこらへんはすこしどうでもよくなってきている感がある)。

都市を対象とする学には何があるか。都市地理学・都市経済学なんかは分野として認められているだろう。都市理学というのはない。たぶん、そういうあたりから、都市工学は工学かと言いたくなってしまう気持ちが出てくるのだろう。


  1. 1. 工学における教育プログラムに関する検討委員会「8大学工学部を中心とした工学における教育プログラムに関する検討」