生きることは忘れること

サクラクエスト

サクラクエスト」というアニメ作品の話をします。きららとどのような関係があるかと言うと、コミカライズがまんがタイムKRコミックスにて刊行されております。読んでおりませんが(ごめんなさい……)。

「内定したのは、国王だけでした。」とかいうキャッチコピーというかアオリ文句が付いていて、学部4年生としては大変に刺さるわけでありますがそれはさておき。「国王」というのはいわゆる観光大使的なやつで、作品のテーマは「まちおこし」。短大を卒業したばかりの主人公、木春由乃(こはるよしの)が縁もゆかりもない田舎で1年間まちおこしに奮闘する物語です。

『花咲くいろは』1『SHIROBAKO』に続くP.A.WORKSの“お仕事シリーズ”第3弾で、高校卒業以上の女の子5人組がメインキャラクターになっています。女子高生(あるいは女子中学生)というのは大変よくあるパターンですが、はたらく女の子というのは一気に減るわけであります(というか、だから「お仕事シリーズ」とかいう概念が成立するわけですが)。きららで言うと『NEW GAME!』とかがそうですね。それからこの5人は、もともと全員に接点があったわけではなく、主人公が鍵になって親しく交わるようになったのですが、そんなところは『ご注文はうさぎですか?』2を想起させるようなエモがあります(語彙力……)。

そして本作の見所の一つは、メインキャラ5人が仲良くなるにも一悶着あるということです。というか、普通に喧嘩します。そこから少しずつ関係性が変わっていき、それとシンクロするように彼女たちの「まちおこし」に対する姿勢も変わっていく、そのさまが2クール25話かけてじっくりと描かれるのが良いです。まあ、初めの方の話数を観ているとパッとしないという印象も抱くので(私も初見ではそうでした)、そのあたり表裏一体で玉に瑕というか難点なのですが。1話1話の積み重ねで辿り着いた最終話のタイトル回収が本当に美しく、感動したものでありました(語彙力…………)。


さてそれで、アドベントカレンダーの記事をどう膨らますか悩んだのですが、アニメで「まち」を描くということについて少し考えてみようかと思って、その話をします。

そもそもアニメというのは(基本的には)物語なわけでありまして、すなわち“作品世界”の時間を切り取って24分(なり15分なり5分なり)という時間にまとめているわけだ3。ここで、時間が切り取られていわば断片化されているのと同時に、空間も切り取られて断片化されているのではないか、と思う。学校の教室、自宅、駅、そんな場所場所は画面に映されるし、それぞれの間をつなぐ道も映されないということはないが、でも、そこにどんな距離があって、歩くとどれだけ時間がかかってどれだけ疲れて、その途中で景色がどう移り変わるか、畢竟、主人公が何を感じるかは、何をどうやってもアニメという媒体だけでは表現しきれない。舞台探訪(聖地巡礼)という営みは、もちろん作品が実在の特定の土地を舞台(またはモデル)にしていることが前提になるが、このあたりに楽しみの源泉があるのではないかと私は思っている。

翻ってサクラクエストでは、登場人物そして物語がもちろん主役なわけだが、「まち」も重要な位置を占めるはずである。しかしどうも、主人公たちの活動の拠点(観光協会、「王宮」、彼女らの暮らす寮、集会所、等々)が頻繁に映される4一方で、それ以外のたとえば移動中のシーンは比較的少ない印象を受ける。いろいろな場所を訪れていることは描かれるが、それだけでなくもう少し、空間的な「まち」の広がりを演出する工夫があってもよかったのではあるまいか、とちょっと勿体ない気分になるところである。(といっても車での移動が圧倒的に主流である田舎においては、ドアツードアの点と点で捉えられて「まち」の空間的な広がりという認識そのものが薄い、ということもあるのかもしれない5。寂しい話だが)


理屈をこねないと作品について語れないのかという気分になってまいりましたが、そういえば舞台の話をしたのにサクラクエストの舞台に言及していませんでした。作中では「間野山市」となっていますが、富山県南砺市(鉄オタには城端と言った方が通りがよいかもしれぬ)がモデルになっています6。といってもすべての舞台が南砺市内にあるわけではないようですし、位置関係が実際と同じである保証もないのですが。旅行に行きたいですね。


  1. 1. 観ておりません。懺悔。
  2. 2. 原作どころか3期すら観ていない。ごめんなさい……
  3. 3. この話どっかでやった気がしたが、「『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』はいかなる百合であるか」でも書いてたんだそういえば……議論のバリエーションを広げていきたい
  4. 4. しかも、場面転換が多いこともあるのか、都度つど建物の外観が映されることが徹底されている。
  5. 5. しかしそうすると今度は、彼女らが自分自身の車を所有してはいない、という事実が重要になってくる。徒歩で移動できない距離はバスか車が必要になるのだ。10話の織部凛々子なんかでストーリーにも絡んでいるはずなのだが、どうも深掘りされていない。
  6. 6. ちなみに、間野山市と姉妹都市を締結(!)している:「サクラクエスト間野山市×富山県南砺(なんと)市」(アニメ×リアル)姉妹都市締結を発表!