生きることは忘れること

【Web再録】都市工学徒猪瀬舞概念

はじめに

猪瀬舞に実在性を付与するにあたり、彼女の進学先がどこであるかは重要な問題である。ふぁぼん (2021) は、これについて東大説を提唱し、概括的な考察を行っている。本稿は、この考察を踏まえ東大生猪瀬舞概念に関する議論をさらに深化させるため、猪瀬舞の進学先学部・学科として都市工(工学部都市工学科)の都市計画コースをとりあげて検討を行うものである。

東京大学には「進学選択(進振り)」という独特の制度があり、入学時には「前期課程」としてすべての学生が教養学部に所属し、2年生の秋に「後期課程」として各学部・学科に進学するという仕組みとなっている。ふぁぼん (2021) でも、地理の学際性を踏まえた本制度の重要性は強調されたところであり、それゆえ、猪瀬舞が東大においてどのような学生生活を送るかを考える上で、後期課程でどの学部・学科に進学するかという点が重要となってくると考えられるのである。本稿では候補となり得るすべての学部・学科をとりあげる余裕はないが、候補の一つたる都市工を対象に検討を行い、猪瀬舞がどのような都市工学徒たりうるか明らかにすることを通じ、猪瀬舞の解像度を向上させる端緒としたい。

都市工/都市計画とは何か

「都市工」とは東京大学工学部都市工学科(・大学院工学系研究科都市工学専攻)のことで、「都市のフィジカルプランナー(すなわち物的・空間的存在によって形成される諸環境の計画とデザインを行う者)の教育・養成、ならびに都市問題に対処する工学的研究・教育」1を目的としている。都市計画コースと都市環境工学コースの2コースが設置されているが、本稿で取り上げるのは都市計画コースである。

「都市計画」とは何かというと、きわめて大雑把には、建物や道路や公園などといった都市を構成する要素の間相互の関係性を調整することを通し、都市における環境の向上を目指す営みである2。たとえば、閑静な住宅街の近くに騒音や煙を出す工場ができたら困るし、多くの車が通る幹線道路が狭くて曲がりくねっていたら渋滞が起きてしまうだろう。大雑把に言うと、こういうことがなるべく起こらないように総合的な計画を立てることと、それを実現できるような仕組みを考えることが、都市計画の仕事である。

都市計画の根幹となるのは土地利用と施設配置の計画である。施設配置の計画というのは分かりやすく、道路や公園などを作る場所を決めるということである。土地利用の計画というのは、地域ごとに建物の高さや用途(住宅・店舗・事務所・工場、等々)を決めるものである。どちらも、単に計画というだけでなく、それを長い時間かけて実現するための規制(ルール)が法律で決まっており、都市の中で建物を建てる場合は誰もがそれに従わなければならないということがポイントである。

図1:都市工の入居する東京大学本郷キャンパスの工学部14号館から撮影した本郷通りの風景。写っている建物の中に、手前側の部分が段差のように高さが低くなっているものがあるが、この部分に道路を広げる計画があるために取り壊しやすいようこのような構造になっている。
図2:同人即売会の会場としてお馴染みの大田区産業プラザPiOの最寄り駅、京急蒲田駅の近くで撮影した車窓。左手のビルが立ち並ぶエリアは、店舗や事務所の多い地域と位置付けられ、比較的高い建物を建てることが認められている。一方、右手の低い建物が並ぶエリアは、住宅を中心とした地域として位置付けられ、建物の高さが制限されている。

最近の動向としては、人口減少と高齢化を背景とした「コンパクトシティ」政策がまず挙げられよう。また、地球温暖化対策との関連では、人や物の移動に伴って生じるものである運輸部門の二酸化炭素排出量を削減するために、人々がどこに住み、どこで働き、どこで遊ぶかをコントロールする技術である都市計画は極めて重要な役割を果たすはずである。この他、防災も都市計画の重要な要素であり、かつては都市計画としては市街地火災(関東大震災を想像すればよい)が主要な対象であったが、近年ではさらに、津波や水害に対して被害の可能性が高い場所に住まないという都市計画の手法を活用しうるアプローチが広まってきており、都市計画の役割は増しているように見受けられる。

どのように #都市計画は地理 であるか

建物や道路や公園といった都市計画が取り扱う要素は、まさしく地図で表現される対象である。実際、都市計画ではさまざまな地図が使われる。その中で最も基礎的なのが「都市計画図」と呼ばれるもので、次のような見た目をしている。

図3:川越市の都市計画図の一部。土地利用のルールごとに色が塗り分けられているほか、道路や駅前広場・駐車場などの計画が描かれている。

作中では地質図が「カラフルでキレイ」な「かわいい地図」(1巻p.70)として猪瀬舞を魅了したことが描かれているが、都市計画図もこれに負けず劣らずといったところではないだろうか。

地図というのは、概して地表面上に存在する物を表現したものであるわけだが、実際には、地図に描かれている要素のすべてが現地において直接“目に見える”形で存在しているわけではない。分かりやすいのは自治体の境界などで、地表面上に実際に線が引かれているわけではなく、あくまで人間が人為的に作った仮想的な線が存在しているだけで、街区表示板(1巻p.70)3のような地名の表示などを通して間接的にそれが分かるに過ぎないのである4。「地図を見ながら歩くと公園や近所の道がいつもと違って見えたんです」(1巻p.72)というのは、もちろん普段の生活では地図と同じ「上から」の視点で街を見ることはないということにもよるが、地図上には実際には直接見ることができないものまでも描かれているというのも大きな要素なのではなかろうか。そうすると、都市計画図はその特徴を顕著に有する地図なのであって、手に持って街を歩いたときの面白さもひとしおと言えるかもしれない。

都市計画に出てくる地図について押さえておくべき点のもう一つは、それが未来を指向しているところであろう。上で紹介した「都市計画図」の場合はあくまで未来を見据えた現在の制度を表現したものであるが、都市計画ではもっと直接に未来の構想を表現した地図を作ることもある(現在の制度も、そうした未来の構想をベースに作られるものである)。「地図に残る仕事」というゼネコンのキャッチコピーがあるが、都市計画の仕事こそがそれに相応しいものではないだろうか。そして、未来は現在の延長線上にあるのであり、それゆえ未来の構想は現在の良いところを伸ばす(とともに悪いところを改善する)ように立てられるのが普通なわけだが、それは現在の良いところを探して描くことなのだから、「宝の地図」(1巻p.72)であるとも言いうると筆者は思うのである。

地図だけではなく、都市計画という営みそのものの地理・地理学との関係も重要である。都市における建物や道路は当然都市計画の影響を受けて形成されてきたわけだから、「街並み」と呼ばれるようなものは都市計画と切り離せない。また、建物や道路がどのように作られるかということは、ひいては人間の幅広い活動を間接的に、しかし確実に規定する。地理学なるものを一概に定義するのは難しいが、たとえば「地球表面のいろいろな自然および人文の現象を研究する科学」5などとされるから、その意味において都市計画は地理学(とくに人文地理学)の対象となるはずである。

そのようなわけで、(地理学が実際にこれらをどう扱っているかはさておいても)地理的視点から物を見るとき、そこに都市計画の要素が入ってくることは大いにあるのであり、猪瀬舞が都市計画に関心を持つ可能性というのはけして絵空事ではないということができる。

猪瀬舞と都市工の出会い

猪瀬舞が都市工に進学するとしたら、どこでどのように都市工の存在を知ったかが問題となる。

一つの可能性としては授業である。東京大学では、専門の学部・学科に分かれる前の前期課程においても、各学部・学科の教員が担当する授業が開講され、広い分野に触れることができるようになっている。当然、そのうちには都市工が開講している授業も存在しており、猪瀬舞が大学に入学した年度と考えられる2019年度の場合、「東京の街を歩き、その空間について考える」という授業がある。シラバスを引用すると次のようである6

本授業は、フィールド体験型ゼミナールとして、駒場キャンパス及びその周辺や東京の街を歩き、その空間の特徴を把握しながら魅力と課題を発見し、それらを表現する力を養うことを目的としています。授業では、まず、1つの小さな街とも言える駒場キャンパス及びその周辺をフィールドに、現地踏査と情報収集(写真撮影、寸法測定、観察等)、収集した情報に基づく空間の特徴の把握、魅力や課題に関する討議と整理、整理した内容の表現・発表(大判ポスター)といった一連の作業を7名程度の少人数グループで行います。次に、個人で、東京の街を歩き、魅力的な街を3ヶ所選び、その魅力について発表を行います。そして、小人数グループで「東京の魅力的な街マップ」を作成します。

この授業は、「初年次ゼミナール理科」という科目の一部で、クラスごとに割り当てられたいくつかのテーマの授業のうちから1個を選んで履修しなければならないという仕組みになっている。猪瀬舞がこの授業の割り当てられているクラスに所属しているかは明らかではないが7、仮にそうだった場合には、間違いなくこの授業を選び、都市工や都市計画というものの存在に触れることになると思われる。

——イノ先輩、お久しぶりです。大学はどうですか?
——それが、なんと街歩きをする授業があるんです!

また、「TOKYO: 東京の都市計画」という授業もある。シラバスは以下のようである8

さまざまな人々を惹きつけてやまない世界一の大都市TOKYO それは、どのように発展し、制御されてきたのか、そしてどこに向かおうとしているのか? 本講義では、TOKYO/東京を題材として、都市の発展とその制御について、歴史、文化、環境、経済、社会制度、計画・デザイン手法など総合的・包括的観点から講義を行い、都市の諸問題について自問し、またその将来を構想することにむけて必要となる学術的パースペクティブを獲得することを目的として実施する。

こちらは純然たる選択科目であってクラスという不確定要素の影響がない一方で、シラバスには「まちあるき」のような分かりやすく猪瀬舞の気を惹くキーワードが含まれていないので9、仮に猪瀬舞がすべての授業のシラバスに目を通しているとしても、この授業を履修したかどうかにはやや疑問が残る。

この他、授業以外でも都市計画と出会う可能性はあると思われる。そもそも普通に考えて、進学先を決めるためにさまざまな学部・学科のガイダンスに参加しているだろうから、その中で都市工の存在を知るというのも(面白みはないが)あり得そうなものである10。また、猪瀬舞が所属しているとされる地文研究会地理部などの交友関係の中に、都市工・都市計画に関わりのある人がいてもおかしくないだろう。

さらに、街歩きの中で都市計画というものの存在を知る機会も、必ずしも多くないかもしれないが、皆無とはいえない。具体的には、都市計画には、敷地内に広場を設ける代わりに本来の高さ制限を超えた高さの建物を建物を建てることができる、という特例制度があるのだが、その条件として設置された広場には標識を設けることになっていて、街中で「都市計画」の文字を目にする例の一つになっている。普通は気にも留めないかもしれないが、猪瀬舞は夏休みの間に誰かが中庭の鯉に名前を付けていたことに気付く(2巻p.40)ほどにいろいろなものを観察しているので、このような些細なきっかけから都市計画に関心を向ける可能性だってあると筆者は思うのだ。

図4:公開空地の標示板11。「都市計画法」の文字が記されている。

どのように #都市計画は地理 でないか

さて、ここまで猪瀬舞(あるいはその関心の中心たる地理学・地図)と都市計画に親和性があるかについて述べてきたが、もちろん都市計画は地理そのものではないので、この点についても確認しておきたい。

まず明らかに、都市計画の扱う対象は「都市」に限られるという点がある。とはいっても、これは別に大都市だけを扱うのではなく、小都市や場合によっては農村も含むもので、必ずしも強い特徴づけであるとは思われない12。もちろん、自然地理学は地球の全表面上を対象とするし、人文地理学に限っても人間の活動する場所すべてが(原理的には)対象になりうるから、それと比べると狭い範囲ではあるのだが、もともと猪瀬舞は都市部で生活しているわけで、猪瀬舞が主たる関心とする空間的領域は都市計画の守備範囲と十分に重なると言えるだろう。

それ以上に顕著なのは、都市計画が「計画」であり、また工学の一分野であることからも分かるように、“より良い”未来へ向けて対象(ここでは都市)を変えていく(操作する、介入する)という態度で接するということである。これに対し地理学は、あくまで対象(たとえば都市)を観察・記述する、すなわち“あるがまま”でどのようになっているか考えることに集中する。13

上でも述べたように、それでも都市計画の営みそのものが地理学の対象となるということはあり得る。とはいえ、地理学的関心によってそれに関わるのと、都市計画を担う者としてそれに関わるのとでは、求められる姿勢が大きく異なってくるといえるだろう。というのも、地理学的関心から都市計画をみるとき、それはあくまで“より良い”未来へ向けて対象を変えていくさまを“あるがまま”観察・記述するという見方になるはずで、自身が“より良い”未来へ向かおうとする立場に立つことは決してないからだ。

そのようなわけで、地理学と都市計画の間には、強調してみれば一定の距離があるということになる14。ただし、それでは猪瀬舞が都市工に進学するのが場違いであるかというとそうとも限らない。そもそも猪瀬舞の関心の中心が純粋な地理学そのものであるかというと必ずしもそうではなく、むしろ地図への関心を出発点に幅広い分野に興味を持っているようにも見え、その中で進学先としてむしろ都市工を選ぶことは必ずしも非現実的だとは思われない15

進学してから研究室配属まで

さて、御託はいい加減にして、実際に都市工学科都市計画コースに進学した猪瀬舞の様子を見てみよう。

都市工の授業の中心となるのが「演習」と呼ばれる科目である。2年生の後半は週に2回、3年生と4年生の前半は週に3回、それぞれ午後の2コマ(3時間半)を使って行われる。1つの課題を2週間から2ヶ月程度かけて進めるようになっていて、形式はグループワークと個人作業が課題によって異なる比重で組み合わされる。

演習の(本稿の文脈での)目玉は、もちろん街歩きである16。3年生の春に実施される「地区の実態認識と評価」は、授業5回分を使って都内を中心に5ルートをまわるという街歩きが主役の課題となっているほか、ほとんどの課題で対象となる場所の現地を訪れる機会がある17

一方、課題の内容そのものに目を向けると、集合住宅の設計や都市マスタープラン18の策定など、都市計画に特有のプランニングという視座を色濃く有しているのは確かである。とはいえ、だからといって猪瀬舞がそれに馴染めないとか上手く対応できないということがあるかというと、それは考えにくい。そもそも猪瀬舞は地質図をきっかけに入った地質研究会そして地学部地質班で3年間の活動をまっとうしているのだから、都市工にも早々に馴染み、積極的に課題をこなしていくと考える方が自然だろう19

授業以外では、「学科旅行」なる催しがある。都市計画コースの学生には当然ながら地理好き・旅行好きが少なくなく、長期休みに入ると数人から十数人のメンバーで国内外のさまざまな場所に出かけるのである。猪瀬舞はもちろん、嬉々としてそれに参加するばかりでなく、企画側にまわって旅程を立てたりと大活躍。授業でも授業外でも都市工ライフを満喫することになるだろう。

猪瀬舞の研究室

都市工では4年生の春に研究室配属が行われる。そこでここでは、猪瀬舞がどの研究室に所属するかを検討する。もちろん2年間の都市工生活を経て都市計画の中で関心のあるテーマを見つける可能性は大いにあるので、その意味ではすべての研究室が候補となるが、ここでは地図・地理学といった分野に比較的近いと思われる研究室を2つ検討する。20

都市デザイン研究室

まずは都市デザイン研究室である。大学を卒業するには卒業論文を書かなければならないのが普通だが、都市工では卒業論文に代えて卒業設計を選ぶこともできる(卒業設計は建築学科では一般的で、その流れを汲む制度であるようだ)。卒業設計が行える研究室はいくつかあるが、都市デザイン研究室はその一つである。そして、都市工における設計のポイントは、建物単体を考えるのではなく周りの街との調和を重視することにあり、そのためには地域について幅広い分析を行うことが求められる。

また、本研究室は「都市空間の意図を読み解き、持続的な魅力ある暮らしの場を実現する」21ことを掲げており、その活動は研究だけではなく、まちづくりの現場における実践、具体的には「様々な地域社会の住民や自治体の方々と協働しながら、綿密な調査をふまえた実験や提案」22をする、といった活動にも及んでいる。

そのようなわけで本研究室は、都市計画コースの研究室の中でも、具体的な“地域”との関わりが深い研究室である。猪瀬舞が“デザイン”に関心を持つかどうかはさておいて、幅広い関心と綿密な観察をともなう彼女の街歩きは、本研究室においても大きな武器になるのではないかと思われる。

——まちづくりって、街を歩いていろいろなものを見つけるのが第一歩なんです

それから都市デザイン研究室が扱うテーマにはもう一つあり、都市計画史である。あらゆる分野がそうであるように、「都市計画史」なる分野もまた一言で説明するのは難しいが、ここで想定するのは具体的な都市・地域を対象としたもので、その場所における過去の都市計画やそれにまつわる事象に関する研究であると考えればよい。必ずしも狭義の都市計画にとどまらず、地方史・地域史あるいは地域研究的な側面もあるのだが、都市計画の空間的(地理的)視点が持ち込まれていることがポイントであろうか。猪瀬舞は地図・地理に関して歴史的方面にも関心があるようだから(3巻p.8)、彼女に適した研究分野ではないかと考えられる。

なお、都市計画史が都市計画の一分野であるのは、各都市・地域の来歴というのが現在の(これからの)都市デザイン・都市計画において考慮すべき一要素であることと、都市計画という分野(あるいは運動23)における反省的な回路としての役割を期待されていることによると思われる。要するに単なる都市史・地域史とは異なって都市計画との関わりは無視できないということだが、ただ、それをまったく意識しなくてよいとまでは言わずとも、必ずしもつねに前面に置かなくても研究としては十分成り立つはずで、都市計画の中では地図・地理的関心に基づいた地域に関する研究が行いやすい分野だとは言えるだろう。

住宅・都市解析研究室

もう一つは住宅・都市解析研究室である。研究室の名前にも取られている「都市解析」という分野は、必ずしも明確に定義がされているわけではないが、「人間行動の空間的分布を研究の対象として」いる分野(下総(監訳)、1987)であるというのが一つの説明である。「解析」という語のイメージからも想像されるように、数理的な方法を用いた分析を指して呼ぶことが多い。もちろん都市の政策たる都市計画の中でそれを支える科学的知見としての役割を有する一分野であるのだが、その一方で、必ずしもそれにとどまらない分野横断的な領域としての「空間解析」あるいは「空間情報科学」の一形態であるとも理解できるように思われる24

「空間情報科学」という言い方はコンピュータ技術のめざましい発展とともに登場したもので、「地理情報システム (GIS)」と呼ばれるソフトウェアがツールとしても研究対象としてもきわめて重要なものである。本稿の読者の多くにはお馴染みと思われる「地理院地図」も、地形・地質や土地利用などのさまざまなデータを地図の上に重ねて表示する機能を持っており、GISの一種ということができる。そして、このような地理空間情報技術はもはや地図を作るにあたっても欠かせないものである(それどころか、日常的に使われる地図はもはやインターネット上の地図になっているし、紙の地図もデータをもとに作成されるのがあたりまえになっているので、現代においては地図を作ることは地理空間データを作ることと不可分である)。

——GISっていうソフトを使うと、いろんなデータを使って自分で地図を作ることができるんです!

かような現代的な事情はもちろんとしても、もとより地図というものは空間に対する人間の認識を表すものであり、同時に空間に対する人間の認識を形作るものであるから、上で述べた意味での「都市解析」の範疇に含まれるし、本研究室における研究例も少なくない25。そのようなわけで、都市工において最も「地図」と直接の関係のある研究室は本研究室であり、猪瀬舞が所属することになる可能性は大であると考えられる。

参考文献


  1. 1. パンフレットによる
  2. 2. 教科書的には、たとえば「都市における人々の様々な活動を支える物的環境 (physical environment) あるいは建造環境 (built environment) を計画・実現する社会技術」であり、「個々の敷地の土地利用や建物の用途・形態、多数の敷地の集合体である都市を支える各種施設の配置を対象とする」ものであると説明される(中島ほか、2018)。
  3. 3. ちなみに「街区表示板」という語は専門用語で、「住居表示に関する法律」という法律に基づいて設置されている。
  4. 4. この点、教科書や百科事典などでは、地図が表現しているのは地表面上の「状態」とか「事物」であると説明されることが多いようである。よくできたものである。
  5. 5. コトバンクに収載されているデジタル大辞泉の「地理学」の項による
  6. 6. https://www.c.u-tokyo.ac.jp/zenki/2019S_syllabus_foundation.pdf#page=83
  7. 7. 東京大学ではクラスは選択した外国語によって決まるため、この点についてより詳細に議論するには猪瀬舞がどの第二外国語(東京大学の用語では「初修外国語」)を選択したかを検討する必要があるが、本稿でそこに踏み込む余裕はない。また、選択者の多い外国語の場合、その中でさらに複数のクラスにランダムに割り振られるため、決定的な情報とはならない。
  8. 8. https://zenkyomu.c.u-tokyo.ac.jp/syllabus/2019A/2019A_syllabus_integrated.pdf#page=174
  9. 9. もうすこしシラバスの書きようがあると思うのだが。
  10. 10. 2巻p.48で「やさしい土木技術」なる本を読んでいるので、工学部と一切無縁だと考えることはないであろう。
  11. 11. 「渋谷スクランブルスクエア」のもの。
  12. 12. イギリスの都市計画法は“Town and Country Planning Act”という(日本語では「都市農村計画法」と訳される)。そもそも都市計画技術は、もちろん大都市を主な射程において発展してきた部分もあるが、基本は建造環境 (built environment) と呼ばれるものを相手にするのだと筆者は考えており、その意味では複数の建物がある場所であれば原理的に都市計画技術を適用できる可能性がある。もっとも、かりに富士山頂や南極の基地においてそのような営みがあるとしても、それをわざわざ「都市計画」と呼ぶことは稀であろうが。
  13. 13. 都市計画と地理学の関係については、最近Twitterでも話題となっていた。ツイートのまとめが作成されている。
  14. 14. 筆者はこのような言説に手放しで賛同しているわけではないが。
  15. 15. 地理学(人文地理学)も都市計画もともに地理的・空間的な見方を持っていることは間違いないが、地理学は人文的な事象すなわち人間の活動に基本的な関心を持った上で、その地理的側面を欠くことのできないものであると認識しスポットライトをあてる、という節があるようにも見受けられる。これに対し都市計画では、都市という空間がまず先にあって、その上でそれが人間の活動を支える・規定するものであるという基本的認識のもとどのように受け止めるか・作っていくか、と考えるように思う。そのような意味で、建物が形成する「街並み」といったような空間に対して、空間そのもののフィジカルな分析は都市計画の方がより“染みついている”向き合い方であり、そういう部分であれば(未来へ向けたプランニングという視座をもたなくても)都市計画は有力な選択肢となるのではないだろうか。(もっとも学部2年生時にここまで考えて進学先を選ぶ人はそうそういないだろうが)
  16. 16. 都市計画分野では「巡検」という言い回しはしない。
  17. 17. 筆者の代である2020年度進学者は、新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) の影響で、これらはほとんど実施されず、Googleストリートビューを用いた「バーチャル街歩き」などというvirtualでもなんでもない名状しがたい何かで代替された。なお、猪瀬舞は2021年度進学と想定されるが、聞き及ぶところによると、彼女の代は制限は加えられつつもこれらの大部分を実施できたようである。
  18. 18. 自治体などが作成する都市計画に関する基本的な方針のことで、通常数十ページにわたる文書である(ただし、演習では発表用のポスターの形で提出することが多い)。
  19. 19. 筆者は「あくまでプランニングを見据えた立場を取る都市工の目線とどうしても相容れずにドロップアウトして闇堕ち猪瀬舞概念(ごく一部のオタクが好きそうなやつ)」というツイートをしたことがあり、これはこれで検討に値すると考えてはいるが、この概念を正当化するには相当に強い二次創作が必要であろう。
  20. 20. 本節の議論は2021年5月24日の一連のツイートをベースにしたものである。
  21. 21. パンフレットより
  22. 22. パンフレットより
  23. 23. 過激な見方をすれば。筆者はあながち間違いでもないと思っているが(都市計画に限らず少なからぬ学問分野において)。
  24. 24. 東京大学には「空間情報科学研究センター」という組織があり、本研究室と兼務している教員もいる。
  25. 25. 学位論文の一覧が研究室のホームページに掲載されているが、数年に1件ほどの頻度で地図の作成・表現方法を題材として取り扱っているものがある。
  26. 26. 著者のブログにて梗概が公開されている(Web再録にあたっての注:現在は全文が公開されている)。